ドラマ チェルノブイリをより深く見るための基礎知識

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そもそも原子力発電とはなにか

まずは原子力発電というものについて簡単に説明します。

原子力発電とはその言葉の示すとおり「原子力を利用した発電」を指します。制御技術などの難しさから複雑な発電方法をしているようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、原子力を熱エネルギーに変換させ、それによって水を加熱して蒸気を発生させ、その蒸気によって発電機を回転させて発電しているだけです。つまり火力発電で石炭などの化石燃料を燃焼させて熱エネルギーを得る(=化学エネルギーを熱エネルギーに変換)過程を原子力エネルギーで代用したに過ぎません。
しかし、この原子力エネルギーは化学エネルギーとは文字通り桁違いのエネルギー量を秘めており、それ故により少ない燃料から莫大なエネルギーを取り出せるものの、制御もよりむずかしくなってしまうのです。

原子力とは

我々は中学校や高等学校で原子というものを勉強し、これが「物質を構成する最小単位」と習いました。
その原子というのは負の電荷を持つ電子と正の電化を帯びている原子核から構成され、この原子核はさらに電気的に中立な中性子と正の電化を持つ陽子で成り立っていると勉強しました。また中性子数が違う原子を同位体と呼び、その中には放射能を持つ放射性同位体も存在すると(確か)勉強したはずです。
※中性子や陽子はクォークと呼ばれる粒子で構成されています。クォークや電子は素粒子と呼ばれる粒子で内部構造を持たない(=それ以上分割できない)とされてます。

原子力というのは、「原子核の変換」や「原子核反応」に伴って放出されるエネルギーのことを指します。このような漠然とした定義では理解しにくいので、原子力発電に深く関わる核反応のうちの「核分裂」で見ていきましょう。
核分裂とは原子核(※1-2-1)が分裂して、もとよりも軽い元素に分かれることを言います。原子力発電で用いられるウラン235では、どこからか飛んできた熱中性子(※1-2-2)が不安定なウラン235の原子核に衝突し、このときウラン235の原子核はより軽い2つの原子核に分かれ、さらに余った中性子(2~4個ほど)が飛び出します。「2つの原子核に分かれ」と書きましたが、これらはそれぞれ正の電化を帯びていたものをなんとか中性子が強い力で繋ぎ止めていた結合を断ち切ったことを意味します。すなわち電気力によって非常に高速な運動をします。つまり莫大な熱エネルギーが生まれるというこです。

※1-2-1 実際には重い原子(=質量数の大きな原子)の原子核や中性子や陽子が過剰な原子核のような不安定な原子核で核分裂が起こる。
※1-2-2 分子の熱運動と平衡な中性子。平たく言えば(比較的)遅い中性子。

核分裂と連鎖反応と臨界

上の節で核分裂について説明しました。要約すると、中性子一つを(ウラン235の)原子核に衝突させると2つの原子核と2個以上の中性子が飛び出す反応のことでした。

放出された中性子がすべて核分裂反応だけを起こす空間に、十分な量の純度100%のウラン235を置いた場合を考えてみます。最初に1つでも中性子をウラン235に照射してさえあげればウラン235がすべて核分裂しきるまで反応が起こり続けることが容易に想像できるでしょう。このように一度核分裂が始まると延々と核分裂が起こり続けることを連鎖反応と呼び、そのような状態を臨界超過(※1-3-1)と呼びます。

先程あげたモデルはすべての中性子が核分裂反応に寄与すると仮定しました。このような場合、時間経過によって指数関数的に核分裂反応が増えて莫大なエネルギーを瞬時に放出します。すなわち原子爆弾です。原子力発電は、瞬時にエネルギーを取り出す原子爆弾と異なり、安定的にエネルギーを取り出す必要があります。そのためには、核分裂反応で放出された中性子のうち(平均して)1つが次の核分裂反応を起こすような状態を作り出す必要があります。中性子に着目すれば

k-eff =[中性子発生数]/[(中性子吸収数)+(中性子漏洩数)]= 1

とk-eff(実効増倍係数)がなるようにする必要があるということです。このk-effが1の状態を臨界と呼びます。

原子力発電ではこの臨界状態を維持するように制御を行います。上の式でリアルタイムに直接的に制御できるのは中性子吸収数です。そのため原子力発電では制御棒と呼ばれるものでこの中性子吸収数を変化させて制御を行っています。

※1-3-1 俗に超臨界とも。

ウラン濃縮と減速材

前節の説明を読むと、連鎖反応は容易に起こせるように感じられたことだと思います。しかし歴史的な経緯を鑑みれば分かる通り、臨界状態に達するのは簡単なことではありませんでした。
そもそも先の説明では純度100%のウラン235を考えましたが、そんなものを作るのは不可能と言えます。地球上における主要なウランはウラン238、ウラン235、ウラン234の3種類で、現在の天然存在比は順に99.28% : 0.71% : 0.0054%です。このうち圧倒的に多く含まれるウラン238は、ウラン235比で中性子が高速なほど(※1-4-1)中性子を吸収しやすい性質を示します。臨界状態を達成する、つまりk-eff=1を目指すには主にウラン235の濃度を大きくしたり中性子を減速させたりします。

まずはウラン235の濃度を大きくする方法を見ていきます。ウラン235を多く含むウランを手に入れるには、天然のウランにウラン濃縮を行う必要があります。これは主にウラン235とウラン238を分離することになりますが、化学的性質はほとんど同じため、わずかに異なる質量や運動速度の差を利用したり、同位体固有の性質を利用したりして濃縮を行います。歴史的に1980年代まではガス拡散法が主流で、その後遠心分離法にシフトしました。このような方法によってウランを濃縮しますが、軽水炉(※1-4-2)の場合は2~4%程度にまで濃縮を行います。非常に長くなるのでここでは説明しませんが、この工程は非常に難しく多くの電力も消費します。

次に中性子の減速です。中性子を減速させる元素には、中性子を吸収しにくいことが当然一つの条件になります。もうひとつ弾性散乱しやすい軽い元素という条件も必要になります。弾性散乱はイメージ的には質点の弾性衝突と似ており、軽い原子核と中性子が衝突すると中性子の運動エネルギーを多く陽子(=原子核)に与えることができます。この2つを満たせば、飛び出した中性子の数の数をできるだけ減らさずに中性子を減速できることになります。このようにして中性子を減速させる物質を減速材と呼び、軽水(※1-4-2)や重水、黒鉛等が利用されてきました。

低濃縮ウランと減速材が揃えば(※1-4-2)後は設計次第で臨界状態にまでこぎつけることができます。

※1-4-1 0.1~1.0MeV以上のエネルギーを持つ中性子を高速中性子と言う。エネルギーの定義は厳密ではない。
※1-4-2 ここでの軽水は重水(D2O)の同位体であるH2Oを指します。存在比から普通の水と捉えても問題ありません。
※1-4-3 実際には天然ウランでも臨界状態に達することはできますが、安全性の問題や効率から低濃縮ウランが利用されます。

制御

さて、なんとか臨界状態に達することのできる炉を作れたとします。すると次に重要になるのは臨界状態の制御です。そのために重要になるパラメータは中性子吸収数でした。中性子吸収数を大きくしていくとk-effが1を下回り連鎖反応を止めることができます。ではどのようにすれば中性子吸収数を大きくできるのでしょうか。答えは簡単で、中性子を吸収しやすい(※1-5-1)物質を原子炉内で増やせば良いわけです。と言っても、物質と中性子の速度に固有の値を取るので直接的に増やすことはできません。したがって中性子吸収断面積の大きな物質を出し入れすれば良いことになります。これを制御棒と言います。

制御棒は挿入する位置によって特性を考える必要があります。例えば炉心領域であれば、核分裂で生み出された高速な中性子がより多く存在します。したがってこのような領域においては高速中性子を吸収しやすい元素の方が効率よく吸収できます。逆に減速材によって熱中性子が増える反射体領域においては熱中性子を吸収しやすいものが優れます。

※1-5-1 中性子の吸収しやすさを中性子吸収断面積という。

原子力発電所の構造

さて、それでは再び原子力発電所の構造を見てみましょう。
重水炉や軽水炉、黒鉛炉など様々な種類の原子炉がありますが、その概念図は下図のような構成で共通しています。

これを見ると分かるように、ここまで見てきた方法によって炉心部で連鎖反応を継続させて臨界状態を維持し、反射体と呼ばれる減速材と似た性質を持つ(※1-6-1)機構で中性子などを炉の中に閉じ込めます。そして炉心部が熱で炉心溶融(メルトダウン)しないように冷却材で冷却しながら、同時に奪った熱を利用してタービンを介して発電機を回します。

※1-6-1 減速材と共通する元素で構成される場合もあります。

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